アートする仲間たち

ぞうきん筆達人の誕生

 

    少し古い話だが、ボクらが編み出した「ぞうきん筆」の話をしたい。
    この筆、ネーミングは今でもどうかと思うけれど、仲間たちの心を開いていくにはとても有効なオリジナル筆だ。
    作りかたはいたって簡単。絵の具を拭き取る雑巾をロール状にくるくる巻いて、テープでしっかりとめる。それで完成。
   それに絵の具をつけて、絵筆では描けないような太い線を描いていく。もちろん力の入れようによって太くも細くもなるけれど、あまり繊細な表情の線を描くのには適していない。シンプルで力強い線。だからいろいろな描線を組み合わせて描くには、細めの雑巾筆や片手では持ちきれないくらいのぶっと〜い雑巾筆も用意しておいたほうが良い。
   こんな筆だから、物を細かく描いたり、正確な形象や彩色にも向いてはいない。というと、あまり有用な筆じゃないなと思われるかも知れないけれど、実はこの使い勝手の良くない筆だからこそ、仲間たちの心を開く力を持っている(と、ボクはおもっている)
   Tさん、ぞうきん筆というと ボクはどうしてもキミのことを想ってしまう。
今は遠くの街に行ってしまったけれど、元気だろうか?
初めて、ぞうきんを3センチくらいに巻いた即席の筆をキミに渡したとき、キミはじっとそれを見つめ、それからキミ特有の甲高い声を上げて、天井に向けて放り上げた。それがキミとぞうきん筆の出会い。キミの声の調子は何だこれ?って感じで、もしかしたら面白いかもしれないとボクは直感したのだった。
    それからキミは筆を床にころがしたり、音楽に合わせて壁をリズムに合わせて叩いたり、時にはボクの頭や顔も叩いたり・・・ぞうきん筆でいろいろな遊びを作り出していった。
    それで頃合いを見て、ボクはキミの前でぞうきん筆に絵の具をたっぷりつけて障子紙にさっと勢いよく線を描いた。キミはポカンとしてその線を見て、それからボクから筆を奪い取り、はっは、はっはと息荒くかけ声を上げて、何本もの線を描いた!それがキミが初めて雑巾筆で描いた線だった。力強く、体からあふれてくるエネルギーが何本ものすばやい線になって、ボクは驚いた。
    そしてボクときみといろいろいろな線を描き始めた。グルグル線やジャンピング線、のんびり線、ピョンピョン線・・・一つひとつの線に名前をつけて、あるがままにキミだけの線が生まれていった。ボクはキミに「ぞうきん筆の達人」という称号をあげた。
    いま思い出すと一人ひとりの、その人ならではの線が必ずあって、その人のコク心を開く道具を見つけることさえできれば、必ずその人ならではのかけがえのない線が生まれるんだという確信をボクに教えてくれたんだと思う。
    Tさん、ありがとう!消息が途絶えて、もう何年もキミと会うことも、声を聞くこともできていないけれど、いまもどこかでキミの線を描いているのだろうか?いつか、どこかの街角でキミの甲高い声が聞こえる時が来るかもしれない。その時はボクもヒョーと声をあげてキミの声に応えたいと思う。